AKM(エイケイエム)とは
AKM(エイケイエム)は、日本人デザイナーの橋本淳氏によって創立したファッションブランド「ダブルジェイケイ(wjk)」のラグジュアリーラインです。
高級素材を惜しげもなく使い、手間ひまをかけたモノづくりを追求しているブランドとしても有名です。
素材・品質・カッティングへの徹底したこだわりが特徴的で、細身の美しいシルエットには定評があります。
AKMというブランド
良い服を探していけばブランドの探求にどうしても行き着いてしまいますが、今日はAKMというブランドについて考察してみます。
取扱店舗との別注シリーズなどもありますし、雑誌掲載のアイテムでも多くのレザージャケットが紹介されています。
ブランドコンセプト
『シンプルでミニマムな表現ほど難しい。そのことを知るからこその、素材一縫製へのあくなき探求。生み落とされた洋服は、世界各地の【職人】と呼べる人たちとのセッション。レザーを中心に常にクオリティの高いものだけを厳選。エッジのきいたカッティングデザイン、タイトなシルエットパターン、ロゴやアイコンに頼らない洋服たちは、着た時にこそ力強く、美しい。着て初めてわかる、洋服のもつ立体感・存在感』
さて、ここまででそうなんだと終ってしまってはブランドが深く味わえませんね。
AKMが表現したい言葉のニュアンスを探ることから、AKMというブランドの良さをしみじみと感じていきましょう。
まずそもそも基盤となっているwjkとはどういったブランドでしょうか?
wjkもAKMと同じく「良いものは変わらない」という考え方を礎としたブランドです。
ただし、コレクションを見ていくと分かりますが、AKMと比較してずいぶんカジュアルに寄ったデザインを前に出していますね。
wjkはカジュアルに、そしてコンセプトを同じくして、AKMはシックで品のある大人を連想させるようなデザインのブランドであると言えます。
そして「シンプルでミニマム」なという表現。
日本語にすれば「単純で小さな」という意味ですが、デザインについての表現ですから、とりわけ際立った表現を使わずに、ごく普通で当たり前のデザインの中に特異性を表現する、というようなとり方が良さそうですね。
「良いものは変わらない」これも流行に流されず、あくまで王道を行くという覚悟の言葉なのでしょう。
ここまでたった二つのコンセプトだけを拾っただけですが、これだけでもはっきりとAKMとしてのブランドの特徴が前に出ていますね。
良い素材にこだわり、流行に流されない、いつまでも愛されるデザインを、渋い大人の男に提供し続けたい。
まとめるとこんな感じでしょうか。
ちょっと年上の女性の人とデートに行く予定が入ったとか、今日は絶対に決めたいデートが入ったとか、なんだかそんな特別な日に来て行きたい服を提供してくれる。
そんな期待の持てるコンセプトのブランドですね。
AKMをもっと深く知る
AKMといえば、レザーを中心にエッジの効いたカッティングデザイン。タイトなシルエットパターンを特徴としたデザインが特徴です。
というところまで前回お話しましたが、さて、エッジの効いたカッティングデザインとはどういうデザインでしょう。
こんなことまで調べるの?なんとなく分かるけど、と思われるかもしれませんが、せっかく深堀するならとことん追及するほうが面白いことが分かったりすることもあるんですから。
Edge(エッジ)を英和辞典で引いてみると「刃、鋭利さ、鋭さ、(欲望・言葉などの)激しさ、痛烈、強み、優勢、縁、へり、かど」という意味が出てきます。
なので、エッジが効いているとは、刃のように鋭いと受け取るのが自然ですね。
しかし、鋭いという言葉にはSharp(シャープ)とかKeen(キーン)とか他にも表現がありますので、この中からあえてエッジという表現を選んでいるんだとすると、もうちょっとエッジの効いた(鋭い)表現で受け取ろうかと思います。
Edgeという言葉の意味の中で特徴的なのが「激しさ、痛烈」という意味です。
「迫力のある」というような訳されかたをします。これはAKMというブランドを際立たせてくれそうな表現ですのでイメージを広げてくれそうです。
ではエッジは置いておいて、カッティングデザインを考えてみましょう。
まずそもそもカッティングデザインというデザインの方法は存在していません。
カッティングデザインとは、そういうデザインがあるのではなく、カッティング(裁断)するときのデザインの仕方という意味なんですね。
AKMのデザインの特徴は「鋭く裁断した迫力のあるデザイン」という感じが良さそうです。
次にタイトなシルエットパターンですが、タイトは「ぴったり密着する」という意味です。正確には「細身」じゃないんですよ。細身のパンツは「Narrowなパンツ」なんですよね。
シルエットは、本体を黒く塗りつぶした後の輪郭という意味です。パターンは「この場合」という意味、じゃないですよ。
パターンというのはファッション用語。服の原型のことなんです。
つまりAKMでは「身体にぴったり密着するような原型を使っている」ということを特徴にしているわけです。
こんな風になんとなく分かっていることも、具体的に理解するともっと面白いですね。
デザイナーについて
服のブランドは、デザイナーのセンスそのものと言っても過言ではありません。そこで、AKMの服をデザインしているデザイナーについても調べてみましょう。
そもそも、AKMというブランドを設立したのは橋本淳氏です。
橋本淳氏は、徳島県出身のデザイナーで、地元の徳島県でセレクトショップを経営しており、アメリカやヨーロッパの古着を多く仕入れて販売していたそうです。
セレクトショップとは、どんなブランドの服でも扱っている服飾店のことです。経営者のさじ加減でどんなブランド、どんなデザインの服でも扱うことができるわけですね。
とはいえセレクトショップでもブランド力を使っての経営は基本ですから、大抵のセレクトショップでは、ある程度ブランドを統一しているのが普通です。
そんな中、ブランド力、すなわち知名度をもたないアメリカやヨーロッパの古着を扱っていたというのは、目の付け所が普通とは違うということもありますが、よほどの選定眼を持っていたんでしょうね。
その後、レクレルール日本1号店のバイヤーを経験した後、マウリッツォアルティエリ氏に共感してイタリアで修行を積み、2004年にwjkを設立、2006年に姉妹ブランドとして設立されたのがAKMです。
さらっと触れているだけになっていますが、レクレルールというのはヨーロッパのブランドで、ジャケット一枚2800ユーロ(執筆当時日本円で32万円)という、超高級ブランド。
バイヤーとして、デザイナーとしてファッションの最先端を進み続けたデザイナーなんですね。現在は個人ブランド「ジュンハシモト」という個人ブランドも展開しています。
現在のAKMは西谷誠人氏と小澤智弘氏というデザイナーにより運営されています。2人はwjkから橋本氏と一緒にデザインを手がけてきたデザイナーです。
西谷氏は靴を中心とした個人ブランド「バゼル」を経営していた実績を持ち、靴のデザインに絶対の自信を持っておられます。
小沢氏も同様に個人ブランド「ウノ・ピュ・ウノ・ウグァーレ・トレ(1 piu 1 uguale 3)」を経営しており、どちらも一人のデザイナーとしてブランドを展開できるだけの実力者です。
AKMはこういった実力と実績を持つデザイナーの力によって、その地位を築き続けるブランドなんですね。
実際の服は?
では、AKMで展開されている服を見ていきましょう。
これはレザーのライダースジャケットですね。いきなりライダースジャケットというところで、AKMがライダースに力を入れているかといわれたらそうではなく、筆者がカッコいいなと思っただけですのでご承知置きください。
とりあえずすごいですね。圧倒的な存在感。上質なカウレザー(牛革)が放つ重厚感がレザージャケットの王道の輝きを放っています。
AKMはシンプルで繊細な表現をコンセプトとして追及するブランドですが、このライダースジャケットはこのコンセプトの奥深さがにじみ出ています。
注目する部分が多いのですが、まずなんといってもフードですね。ライダースジャケットなのにフードつきです。
フードはカジュアル感が強くなるデザインですので、ライダースという力強い表現を柔らかくする効果があります。しかし、あくまで生地を切り替えることなくレザーを使ってのフードです。
柔らかい雰囲気を取り入れながらも、決してライダースジャケットとしての存在感は汚さない。絶妙な表現ですね。
次にリブ。袖口と腰周りにあしらっています。リブはデザインとしての柔らかさもありますが、なによりとても実用的ですよね。ひらひらしないので機能美にも優れています。
ウインドブレーカーの効果が高まりますので、防寒もしっかり意識されていますね。
そして肩のダイヤキルト。キルトは元々丈夫さを補強するために入れますが、AKMはファッションブランドなんですから、そんなこと気にしなくて良いはずなんですけど、これがあるかないかで、ファッションジャケットなのか、バイカージャケットなのかの雰囲気がガラッとかわってきますので、これはライダースジャケットの本来の意味、存在感を確立させるためのデザインなんでしょうね。
カウレザーは安物だとごわついて、ごついシルエットになってしまいますが、ここまでタイトに仕上がっているのはしっかりと柔らかくなるまでなめしてあるんでしょう。
素材へのこだわりが感じられると共に、リブやキルト、単純なライダースジャケットとしてのデザインの力強さを、AKMのコンセプト通りにタイトに仕上げているのは、このカウレザーの支えが無ければ実現不可能でしょう。
そしてカジュアルなフードデザインで雰囲気を損なわないのもまた、レザーの質の良さがあってこそですね。
バイカーのスーツとしてのライダースジャケットの存在感を一切否定しないまま、日常的なファッションとしてのジャケットへと高い次元で昇華させること。
これがAKMのデザインをシンプルに表現するというコンセプトの真骨頂なのかもしれませんね。
AKM M-65 (COLD WEATHER)
今日はAKMのシンプルなジャケット、M-65です。
このジャケットにもAKMの思想はハッキリと生かされています。とびきり特長的なデザインを使う事無く、間違いない存在感を放つ。これがやはりAKMのデザインですね。
このジャケットは、部類で言うとアーミーになります。
アーミージャケットといえば明細柄じゃないのか?と思うかもしれませんが戦争の為に作られた服装の全てがアーミージャケットですので、柄で部類分けしているわけではないんですよ。
ですのでラインナップには明細柄もありますが、柄ではなくデザインに注目してみていきましょう。
M-65とは、1965年に作られたという意味です。
アーミーデザインの特徴は、その実用性にあります。
このジャケットでは、首周りを攻撃されないように、エリが高くなっていますね。露出面積を下げて防御力をあげているんです。
そして、ボタンが上から生地で隠されています。
これは、なにか行動するとき、ボタンに腕を引っ掛けてしまうことを防ぐことが目的です。
そして、ポケットの数。
ポケットが多いのは、沢山の物資を携帯するため。さらに、防寒性能もとても意識されており、冬にはとても暖かく過せるジャケットなんです。
最後に、よく見るデザインかもしれませんが、肩にあるリング。このリングは、手榴弾を取り付けて持ち運ぶためにあるんですよ。
このように、戦争中に必要な利便性がぎっしり詰まっているのが、アーミーデザインの特徴です。
現代に役に立つ利便性はポケットと防寒性能くらいなものですけどね。
このように、アーミーデザインの要素を、やはり濁す事無くそのまま表現している。これがAKMのシンプルな表現の特徴なんでしょうね。
シンプルにデザインを生かすからこそ、戦闘服としての男らしさがそのままデザインを通して伝わってきます。
それでいて、現代のファッションとしてのまとまりをだしてくるのが、そのタイトな形状と、厳選された生地から放たれる、その高級感。
本当に戦うために使うのであれば、厚手の生地を使って防御力を高めていくのですが、AKMのファッションとしての回答は、デザインを否定せずに、シルエットと素材感でカジュアル感を出すことにあったのだと思います。
このデザインの方向性が、AKMのシンプルな表現であり、アーミーとしての力強さと、おしゃれなカジュアル感を高いレベルで共存させるということを実現していますね。
2016/08/18